東京大学 物性研究所 新物質科学研究部門
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共鳴X線散乱で調べたIrO2の軌道状態

 5d電子系ではスピン軌道相互作用がクーロン相互作用やフント結合と同程度の大きさであるため、複数の相互作用が協奏した非自明な電子相・電子物性が発現すると考えられている。実際、Sr2IrO4 やCaIrO3などのイリジウム酸化物において、スピン軌道相互作用がJeff=1/2と呼ばれる複素軌道状態を有するモット絶縁相を誘起していることが知られている。
IrO2のX線吸収スペクトル及び共鳴X線散乱スペクトル
 同種の軌道状態が導電性イリジウム酸化物でも実現している可能性を疑い、IrO2に対して共鳴X線散乱実験を実施した。t2g軌道が関与するATS散乱(原子散乱因子の異方性に由来する散乱)は、L3吸収端では有限であるがL2吸収端では観測されなかった。配位子場理論による解析を行い、L2吸収端におけるATS散乱の不在は、Jeff=1/2軌道状態に対応していることを解明した。導電性物質における複素軌道秩序は、伝導電子のBerry位相を生みだし、スピンホール効果などの新奇な現象を創出すると考えられる。

<参照文献>
  1. "Complex Orbital State Stabilized by Strong Spin-Orbit Coupling in a Metallic Iridium Oxide IrO2"
    Yasuyuki Hirata, Kenya Ohgushi, Jun-ichi Yamaura, Hiroyuki Ohsumi, Soshi Takeshita, and Takahisa Arima, Phys. Rev. B 87, 161111(R) (2013).