ポストペロブスカイト型化合物CaIrO3の磁気・軌道秩序 |
ポストペロブスカイト型酸化物CaIrO3は、TN= 115 Kで反強磁性秩序を示すモット絶縁体である。その磁気構造を決定するために、SPring8
BL19LXUにおいて共鳴X線散乱実験を実施した[1]。転移温度以下で00l(l: 奇数)に磁気反射を見出し、弱強磁性に関する規約表現論を組み合わせることで、磁気構造を完全に決定した。また、ATS散乱は、L3吸収端で明瞭に観測される一方でL2吸収端では見出せないことを発見し、配位子場理論による解析を実施することで、Jeff
= 1/2と呼ばれる複素軌道状態にあることを明らかにした。 |
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Jeff =1/2状態の模式図
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得られた磁気構造において、Ir-O-Irの結合角が90°の場合にはスピンは強磁性的に、180°の場合には反強磁性的に整列している。こうした特徴は、Jeff
=1/2状態の超交換相互作用が、結合角が90°の場合は強磁性的な量子コンパス模型で、180°の場合は反強磁性的なHeisenberg模型で表されるとの理論的予言[2]と完全に合致する。磁気モーメントは僅かに傾いて弱強磁性を発生させているが、これは異方的な量子コンパス模型の反映である。 |
CaIrO3の磁気構造
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本研究により、量子コンパス型の超交換相互作用が実際の物質で実現することを初めて実証することができた。量子コンパス型の相互作用が蜂の巣格子上で作用すると、基底状態はスピン液体であること、および励起状態がトポロジカル量子コンピュータに応用可能なエニオンであることが厳密に知られており[3]、本研究はその実現可能性を大きく広げるものである。 |
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コンパス模型の模式図
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<参照文献>
- "Resonant X-Ray Diffraction Study of Strongly Spin-Orbit-Coupled Mott
Insulator CaIrO3"
Kenya Ohgushi, Jun-ichi Yamaura, Hiroyuki Ohsumi, Kunihisa Sugimoto, Soshi Takeshita, Akihisa Tokuda, Hidenori Takagi, Masaki Takata, and Taka-hisa Arima, Phys. Rev. Lett. 110, 217212 (2013). プレスリリース.
- G. Jackeli, and G. Khaliullin, Phys. Rev. Lett. 102, 017205 (2009).
- A. Kitaev, Ann. Phys. (N.Y.) 321, 2 (2006).
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